石川裕人百本勝負 劇作風雲録

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第五回 地下に潜る

  劇団洪洋社という右翼的な名称は当時愛読していた夢野久作の父親で国家主義者の杉山茂丸の主宰した玄洋社を意識した。字面が固くて良かったのと、洪水の海というイメージも好きだった。そしてどこか大陸浪漫的な響きにも憧れをもった。これは多分に唐十郎師の影響もある。考えてみれば、当時のアングラ系の芝居はどこか右翼的な匂いを放っていたようにも感じる。それは己の肉体という逃れられない捕縛状態に鞭打つ超保守的な思考方法から編み出された演劇論にもよるのだろう。仙台に次々とやってきた当時のアングラ系の芝居者はすべてがやさぐれの気配を漂わせていた。今でも青森で活動する「シアター夜行館」は大八車で旅をし、「走狗」はテント、戸波山文明の「はみだし劇場」はトラックに家財道具を積んで。この劇団を間近に見たり、芝居を観たり、公演の手伝いをしたりしているうちに私も次第にやさぐれていく感じがした。やさぐれる、あるいは流れるといってもいい。この場所から他の場所への脱出は単に地域的なことではなく、肉体からの脱出でもあった。

 記録に残っていないから正確ではないが、1976年だと思う。私たち「洪洋社」は初めてテントに挑戦する。それは東北大学の大学祭からの招待だった。ちょうど「愛情劇場」稽古中だったが、テントはやってみたかったことでもあるし、その申し出を引き受けた。演し物は「異貌の天使の憑肉(つきにく)」歌謡ショーである。タイトルもおどろおどろしいが、歌謡ショーというのも時代がかっている。「月は満月」「失われた都市の伝説」で歌われた劇中歌をメインに芝居仕立てにした。これも唐十郎師と状況劇場の「四角いジャングルで歌う」にモロ影響を受けている。劇中歌の作曲はすべて私である。当時アングラ系の芝居はみんな歌を歌っていた。ブレヒトの影響だろうが、それを方法的に踏襲していたのは黒テントだけで、他はみんなギター1本の演奏だった。

このテント公演に飛び入りして歌を歌ったのが当時大学生だった茅根利安氏で、この後「洪洋社」に入団した。


 私たちは稽古場兼劇場を市内中心部に設けた。向かいに女子高がある絶好の環境だったが、その高校の演劇部員が観に来たことはいっさいなかった。20坪ほどの事務所の天井板をはがしたら屋根の梁がむき出しになり、劇場としていい雰囲気になった。ただ団費は一人1万円を越えていた。当時の1万円だから結構な金額である。しかし、それ以上に私たちは自分たちの稽古場を市内中心部に持てたことで幸せだった。

 1977年に私は3本の戯曲を書いた。9本目「美少女伝」10本目「かげろう夜想」11本目「紅蓮妖乱」である。新稽古場を持ち、張りきっていたことがわかる。しかし、この3本は上演されなかった。劇団員の中に一人どういうわけか反対する人間がいた。ほぼ旗揚げメンバーである。当時は合議制で上演作を決定していたから一人の反対者が出れば上演できなかった。改訂するより新作を書いた方が楽だったので次々と書いてはダメ出しをされるうちにプライベートなことで軋轢が起こった。心身ともに疲弊してきていたが、劇団の代表としてやる気は満々だった。新稽古場での初公演は他のメンバーのオリジナルで私は役者と作曲に専念した。しかし、それは空元気でもあった。



劇団洪洋社第4回公演「ビギン・ザ・バック」稽古風景。信じられないだろうが、右が私である。貧乏だったので痩せ細っている。


 未上演の3本のストーリーやエッセンスは後に新たな戯曲の中に吸収されていくが、それもこの段階では白紙だった。私は精神的に参って来ていた。旅公演の計画も立てたがやれず、団員は減っていく。自ずと団費もじわじわと上昇。経済的にも集団的にも維持が困難になっていた。ほとほと芝居が嫌いになっていた。このままいくと劇団メンバー個人個人も嫌いになりそうだった。’78年宮城県沖地震の年、遂に私は「洪洋社」の解散を決めた。劇団の数人は続けたがっていたが、私のエンジンは動かなかった。

 借りたとき意気揚々とはがした天井板を私たちは張り直した。そしてこの日から4年、私は地下に潜る。アングラ芝居育ちは本当にアングラに帰った。芝居を一切観ないやらない関係も持たない日々が始まる。このときの私に芝居という文字はなかったし、まともな職につくことを考えた25歳の秋だった。


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